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多摩丘陵から 〜日記のようなもの
2020年6月 17日 21日
●6月17日(水)
先日、人気の秋田犬が死んだとの報道があった。
13歳で、人間なら90代前半とのこと。
ということは、16歳だったわたしのマキは、ずいぶんがんばってくれたんだ。
高校に入った年、近所で貼り紙を見て、もらってきた犬だ。きょうだいの中では近所の子たちには一番人気のかわいさだが、雌なのでもらい手がなかなか見つからなかったとのことで、やさしい雌犬を求めていた当方としては、ちょうどよかった。
マキはわたしの犬だった。よく混ざった雑種で、母親は毛の長い黒犬、父親は柴風ということだったが、マキは季節で毛が変わるごとに、色が変わった。黒っぽくなったり、茶っぽくなったり。
なつっこくてかわいいのは変わらず、近所の中学生の女の子たちが、門扉の下から手を入れて、かわいがっていた。吠えればしかる家の人よりも、かわいがるだけのよその人のほうが、マキは好きだったかもしれない。そんなふうに、やっかみたくなるくらいだった。
それから10年で、わたしは結婚して家を出たが、あの家に行くたびにマキと散歩した。人間関係が悪化してからは、マキのためだけに行く感じだった。
それも難しくなった後、マキの歳を考えた夫が、「そのとき」に行けるように骨を折って関係を修復してくれた。
電話を受けたとき、わたしは「行かない」と言った。その姿を見なければ、マキはずっといることになると思ったから。けれども、変わらずかわいいからと言われ、夫に連れられて行った。あとは、よく覚えていない。ただ、引き取りに来た業者の人が言っていた。「色々なお寺さんなどに話を聞きましたが、どちらでも同じことをおっしゃいます。この子たちは魂がとても純粋なので、すぐに生まれ変わってくる。だから、似た子を見かけたら、声をかけてあげてください、と」
その後、実家との関係は完全に破綻した。マキは庭の隅に眠っているはずだが、わたしは知らない。
マキを思うと今もボロボロに泣いてしまう。街を歩いていて老犬を見ただけで涙ぐむので、夫に呆れられているくらいだ。
あれからもう、四半世紀近いのか。でも、マキはここにいるよ。なつっこい、かわいい子だよ。
●6月21日(日)
たった今、TVのニュースで聞いた。
カート・コバーンのギターがMTVのアンプラグドで使用したギターが、オークションに出されて、6億4千万で落札されたと。
なんだよ、それ。
ギターがあったって、カートがいなきゃ、しょうがないじゃないか。
あのとき、最後の「Where did you sleep last night?」の終わる直前に、ふっと目を上げる、あの表情がたまらない。
誰がカートを死なせたのか、色々な人が色々な事を言っているけれど、どうでもいい。知りたくもない。わたしは彼の音楽が好きなだけだ。
かわいそうだよ。放っといてあげてよ。
曲を聴くだけでいいじゃん。それが唯一の供養だ。