明治三十八年(1905年)十二月十四日

 

●清国学生問題と早稲田

 清国留学生紛擾事件今に落着に至らず各学校共今尚事実上休学の姿なるが右につき早稲田大学にては高田学監の名を以て同大学清国留学生に対し左の訓示を発せりと云ふ

 

清国留学生取締規則に関する今回の紛擾は余の最も遺憾とする所なりこの事や当面文部省に対する問題にして直接我早稲田大学に関するものに非ずと雖も為めに諸子の休学久に弥る事実ありては延いて諸子が学業の進歩に影響を及すこと少からずこれ余が訓示を為すの已むを得ざる所以なり

惟ふに今回の事たる留学生諸子の誤解に基くこと少からず文部省の省令なるもの其内容の当否は暫く措き大体に於て其本意のある所を察するに寧ろ留学生諸子を保護するの趣旨に出で敢て干渉拘束を旨とするものにあらざるが如し而して文部省自身亦前日特に説明書を発して其精神のある所を明かにせり然かも諸子にして尚ほこれを疑ふものあるは余の解する能はざる所なり

(中略)諸子の地位より之を観察して不便とするの条項或は之れ無きにあらざらん諸子にしてこれが訂正を求むる意を致すは必ずしも不可ならず然れども其手続方法は穏当着実なるを要す同盟して学業を罷め省令の撤去を強請するが如きに至りては頗る当を得ざる行為にして余が諸子の為めに取らざる所なり故に余は諸子が教育上の管理者として諸子が一日も早く学に就かんことを勧告せざるを得ず諸子に就学を勧告しこれが詩sを計るは余の諸子に対する当然の責務なりと信ず啻に諸子に対する責務なるのみならず又諸子の父兄諸子の国家に対する責務なりと思惟す(中略)要は諸子が速に余の勧告に随ひ専心学に就くの一事にあり

我早稲田大学は諸子のみを教育するが為に設けられたるにあらず然かも一旦清国留学生部を開始せる以上設立の当時に公示せる高遠の目的を貫徹し諸子の成業を見んことを望むの情切なり我早稲田学園の徒は支那学生と日本学生とに論なく超然時流に卓越する大理想なかる可らず諸子望らくは深思熟慮幸に方向を誤る勿らんことを

 明治三十八年十二月十一日

 

 

 

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