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千歳村から 〜日記のようなもの      

 

2007年11月 5日 23日 24日 26日

 

11月1日(木)

朝の総武線(中央線)の、ドアのところに小さい男の子がいて、機嫌よく何か喋っていた。父親らしいスーツ姿の人が、守るようにして立っていた。

わたしは近くに立って本を読んでいたが、男の子の高い声が時々耳に入る。通勤電車は静かなので、大声でなくても際だって聞こえる。それでも声は声のまま意味を結ぶことなく、本に集中していた。

と、急にその声が意味を成した。「今日、ゲキレンジャーショーに行く」と男の子。見ると、隣に母親らしき人もいて、親子三人とも黒紺のきちんとした服装をしている。法事でもなさそうだから、これは受験生かもしれない。小学校受験か。

「三人だったのが、新しいのが来て」と、男の子は父親に説明している。

ゲキレンジャーはわたしも毎週見ているので知っている。いわゆる戦隊もので、三人組だったのが、最近二人増えて五人組になった。

男の子は話し続けているが、子どものことで話がはっきりしないし、少し隔たっているので声自体もよく聞こえない。ただ、「変身する」とか、「ヘルメットが」ということばが聞きとれた。

四谷で彼らは降りた。その間際に母親が、「なんとかちゃん、掛け算は」と言った。「ほら、りんごが何個あって、何人いて」と。男の子は答える間もなく、父親と手をつないで降りていった。

四谷ということは学習院だろうか。今の彼に大切なのは、掛け算よりもゲキレンジャーだろうに。

子ども子どもした、かわいい子だったと思う。あんな小さな子に掛け算が何になるのか。

そしてあの子も、ランドセルを武器に人を押しのけ、カン高いボーイソプラノでこまっしゃくれたことをまくしたてる、あのお坊ちゃんたちの一人になるのか。なりたいのか(もちろん学習院の子どもたちがみんな傍若無人というわけではないだろう。ただ、電車ではやはり目につくのだ)。

 

七歳にして、その聡明さで名を響かせたという楊篤生。七歳ということは、満で言えば六つか五つ。十月生れだから六つにならないかもしれない。今朝のあの子と同じくらいだろう。

そんな子にやたらと詰め込んで、意味も分からずオウム返しにピヨピヨとさえずらせて。かわいらしいというより、痛々しい気がする。

篤生の陽暦でのお誕生月間初日に、そんなことを思った。

 

 

11月5日(月)

週末、久しぶりに公園へ行った。雑木林にはまだ蚊がいたし、もみじは青々としていたが、空気はさわさわとして、日陰に入ると寒いくらいだった。

 萩をトンネル状にしつらえた径をゆっくり歩いていると、真っ赤なチョッキを着た、小学校に上がったかどうかというくらいの男の子が、勢いよく走ってきた。そして、「通してくださーい」と言いながら、わたしたちのそばをすり抜けていった。ことば自体は大人みたいだが、口調も表情も子どもらしい朗らかさだったので、「おもしろい、かわいい子だね」などと言いながら見送った。

 と、男の子はすぐに、トンネルと並行する遊歩道を、やはり勢いよく走りながら戻ってきた。そして、道にいた初老のおばさんとぶつかったかに見えた。おばさんは「こら!」と大きな声をあげ、男の子は立ち止まると向き直って正対し、足を踏ん張って「なんだよう」と叫んだ。

この子のお祖母さんなのかなと思ったが、そうではなかった。おばさんは男の子をつかまえると、「なんで知らない人をぶった」と叱りつけた。「知らない人をぶっちゃだめだ」と。そして男の子をぎゅー抱っこした。抱きしめられた男の子の笑顔を横目に、わたしたちは通り過ぎたのだが、最後に父親らしい若い男性が「すみませーん」と駆け寄っていくのが見えた。

立派なおばさんだと思う。今どきあんな人がいるのかと、驚いた。よその子を叱るのはとても恐いことなのに、きちんと叱って、しかも最後はぎゅう抱っこ。小学校の先生か何か、子どもを扱いなれている人なのだろう。

男の子も男の子だ。「なんだよう」と言ったときには、「通してください」の丁寧さと全く違う向こうっ気の強さに驚かされたが、抱きしめらると屈託のない笑顔を見せていた。走るのも声をあげるのも体いっぱい。元気のいい素直な子どもらしい子だ。わたしたちは見ていないが、あの分だとお父さんもきちんとおばさんに謝ったのだろう。

なにか、とてもいいものを見せてもらったような気がして、うれしかった。

 

 

11月23日(金)

 ぐちゃぐちゃの日々。夫の体調がなかなか定まらず、やっと落ち着いたところで、懸案だった恒例の秩父行を決定し、宿をとり電車の切符を買ったら、彼はまた風邪をひいてしまった。

 それから4日間、かけるだけの汗をかき、記録的な量の洗濯物を出して、なんとかとりつくろって出かけた。

 山の上は寒かったが、神社は清浄な神気に満ちていて、助けられる気がした。紅葉の盛りで、紅葉狩りのおばさんたちで平日にもかかわらず賑わっていた。

 いつもの宿の温泉は、正確には温泉ではなく、湧き水を沸かしたようなものだそうだ。山から来る水なので質がとてもよく、風呂好きの夫は気に入っている。風呂としてだけでなく、お茶もごはんも料理も、この水のおかげで全然ちがうと、宿のおばさんが話してくれた。

 確かにここの旅館の料理はすばらしくよいので、「お風呂より料理」派のわたしも気に入っている。

 何でもない素朴な田舎の旅館なのだけどね。宿の人たちも、「仲居さん」というより「おばさん」という感じなので、気楽でいい。着物着た人が玄関に並んだり、おかみさんが部屋まで挨拶に来たりする旅館は苦手だ。

 

 そして、帰ってからは案の定寝ついてしまい、よってわたしも自分の時間が全くとれず、日記も書けなかった。

 この間、エレファントカシマシの久々のシングル発売という重大事があった。レコード会社が変わり、今回は露出を増やすとのことだったが、ふたを開けたら至って地味なもの。ロッキングオンの息のかかった「CDジャパン」とNHKのほかは、早朝の情報番組で宮本のインタビューをちょろっとだけ。これが全くの珍獣扱いで、これじゃエレカシのすごさが分からない。確かに彼は対人能力に困難のある人で、一所懸命になればなるほど、滑稽に見えてしまう難儀な人だが、決して奇異動物ではないんだよ。

 ああ、大塚さんにガストロンジャーを聴かせたい。腰を抜かすぞ。

 

 ところで、エレカシを買ったときに「買取額20%増し券」というのをくれたので、調べてみたら、売ってもいいCDが30枚ほど集まった。中には、今を時めく人気アーティストのインディー時代のなんていうのも複数ある。これは期待できる。先見の明というか、先物買いの才があったのだろうか。

 でもほかは訳の分からぬインディーズ盤がほとんどで、はたして値がつくものかどうか。

 

 

 

11月24日(土)

 いや、驚いた。結局CDを32枚持ち込んで3枚断られ、計29枚での合計買取額が、2万円を越えてしまった。

 高額指定のもあるが、ごみみたいな、100円にでもなれば御の字というのも多かったから、全部で1万円にもなれば万々歳だと思っていた。

 意外なものが高い。誰が聴くんだというような、ごみとしか思えないような、さすがのわたしもこりゃただの騒音だと思ったようなのが、そんなのが一番高かった。

 マニアの集まる店でよかった。ブックオフじゃこうはいくまい。だって、パラガなんて誰が知る? 「のら猫会ったたらこんにちは のら猫もこっち向いてこんにちは のら猫さんに名まえはあるの のら猫だって名まえくらいあるでしょう」って。

 そんなものを集めて聴き込んでいたわたしもわたしだが(実は全部は手放せず、2枚ほど残してある)、それに熱いコメントを附して高額で買い取る店も店だ。ということは、喜んで買う客がいるわけで、ああ、病気の人はいるんだなあ。

 

 さてさて、返された3枚はどうするか。絶対いらないのだけど、ごみに出すには抵抗がある。値段はつかなくとも、アーティストが心血を注いだものなのだから、かわいそうだ。

 もっと一般的なのとまぜて、もっと普通の店に持ち込んでみるか。

 

 店内に、カート・コバーンの巨大なポスターが貼ってあって、ぎょっとした。

 ついでに夫から依頼されたツェッペリンのライブ盤2枚組を購入。やっぱりかっこいい。

 だけど、ああ、やっぱりわたしはニルヴァーナが好き。

 

 

 

11月26日(月)

 今日は雲がきれいで、いろいろな雲があるのがおもしろくて、空ばかり見て歩いていた。

 紅葉が急に進んだ。御茶ノ水の谷はもちろんきれいだが、今日は通り越しに見た医科歯科大の木立がきれいに見えた。

 

 自分が売ったCDがいくらで売られているか、見に行こうかどうしようか迷いながら店に近づくと、エレカシの新曲がガンガンかかっていたので、そのまま入ってしまった。

 宮本の美声をうっとり聴きながら、ざっと見たところでは、まあ概ね倍くらいか。

 査定額1000円の物が税込2100円という感じ。わたしは査定額より2割増で買ってもらったから、その分だけ店の利益が減ることになる。

さすがに100円の物は500円くらいになっていた。これは売れなかったら特価品の箱に移動していくのだろうな。

 不思議なことに、放出した物の全部があったわけではない。もう売れたの? あんなゴミが?

 

 中古の棚に同じCDが何枚もあるのは多くの人が手放したからだが、同じアーティストのがダブりなくたくさんある場合は、誰かが大放出しているのだ。わたしもかつてやりました。真心とか、斉藤和義とか。ピロウズもやっちゃったな。好きだし、時々歌わせてもらっているけれど、さわおくんの多作ぶりについていけなくなった。

 好きだったな。ストレンジカメレオンあたりからアルバム数枚。でも、数年前に売っちゃった。なぜか1枚のこっていたのも、今回売って(高額指定だった)、これで全部なくなった。

 MDには落としてあるけどね。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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